自分の子ではないのに養育費を支払いたくありません。支払わなければいけませんか?

執筆者:弁護士宮崎晃

男性看護師の妻との間に子どもが3人います。

しかし、今まで育ててきた3歳になる一番下の子の父親が私ではなく妻の不貞相手であることが先月発覚し、妻とは離婚するつもりです。

妻は、その子の本当の父親を出産直後から知っていたようです。

確かに、一番下の子の戸籍上の父親は私ですが、自分の子ではない一番下の子の養育費も支払わなければいけませんか。

 

 

本件のような場合、妻が一番下の子の分まで監護費用の分担を求めることは権利の濫用として認められません。

悩む男性のイラスト

原則として、血縁関係がなくとも法律上の親子関係が存在する場合には、子どもの監護費用を分担し、養育費を支払う義務を負うことになります。

血縁上、自分の子でなかったとしても、婚姻の成立の日から200日を経過した後又は婚姻の解消若しくは取り消しの日から300日以内に妻が出産した子どもは、嫡出子と推定され、法律上の親子関係が存在することになります。

 

しかし、子どもが自分の子ではないと発覚した場合、夫が子の出生を知ったときから1年以内であれば、「嫡出否認の訴え」を提起し(民法777条)、これが認められれば法律上も親子関係を否定することができます。

また、「嫡出否認の訴え」を提起することのできる期間を過ぎてしまっても、妻が子を懐胎すべき時期に、すでに夫婦が事実上の離婚をして夫婦の実体が失われていたり、遠隔地に居住するなど性的関係をもつ機会がなかったことがあきらかであるなどの事情が存在する場合には、「親子関係不存在確認の訴え」により父子関係の存否を争うことができます(最判昭44.5.29)。

 

もっとも、本件のような場合、

① 夫がこれまでに一番下の子の養育監護のための費用を十分に分担してきていること

② 妻が、出産して間もない時期に、一番下の子の父親が夫でないことを知っていたが、それを夫に告げなかったため、夫がことの法的な親子関係を否定する機会を失っていること

③ 妻が看護師であり、離婚後の一番下の子の監護費用を専ら妻において分担することができないような事情が窺われないこと

を考えると、夫に一番下の子の分まで監護費用として養育費の支払をさせることは、夫に過大な負担を課すことになります。

類似の事案が争われた判例(最判平23.3.18)では、上記事情を総合的に考慮した結果、妻が夫に対し、血縁関係のない子の監護費用の分担を求めることは権利の濫用に当たるとして、これを認めないこととされました。

 

 

自分の子ではない場合の養育費の問題

自分の子ではないことが発覚したときのポイントについて解説いたします。

 

法律上の親子関係を解消するのは困難?

嫡出否認の訴えの可否
ご質問のケースは、3歳のお子様のケースですので、夫が「子の出生を知ったときから1年」を過ぎています。
したがって、嫡出否認の訴えの出訴期間を経過しているため、この手続を利用することはできません。
親子関係不存在確認の訴え
親子関係不存在確認の訴えは、上記のとおり、「妻が子を懐胎すべき時期に、すでに夫婦が事実上の離婚をして夫婦の実体が失われていたり、遠隔地に居住するなど性的関係をもつ機会がなかったことがあきらかであるなどの事情」が必要となります。
本件では、このような事情の有無が明らかではありませんが、基本的には、この手続を利用することも難しいと考えられます。

 

 

DNA鑑定で実の子でないと判明した場合は?

近年、実務上、よく問題となるのは、DNA鑑定において、自分の子ではないと判明した場合です。

DNA鑑定という、科学的な検査結果において、「99.9%父子関係がない」と判定が出ているのに、法律上の親子関係を否定できないのは違和感を感じます。

すなわち、生物学上は親子でないことが明らかであるのに、法律で親子関係を強制するのは不当ではないか、という問題意識です。

ところが、DNA鑑定の場合であっても、判例は親子関係不存在確認の訴えについて否定的です。

判例 平成26年 7月17日最高裁第一小法廷

夫と子との間に生物学上の父子関係が認められないことが科学的証拠により明らかであり,かつ,夫と妻が既に離婚して別居し,子が親権者である妻の下で監護されているという事情があっても,子の身分関係の法的安定を保持する必要が当然になくなるものではないから,上記の事情が存在するからといって,同条による嫡出の推定が及ばなくなるものとはいえず,親子関係不存在確認の訴えをもって当該父子関係の存否を争うことはできないものと解するのが相当である。
このように解すると,法律上の父子関係が生物学上の父子関係と一致しない場合が生ずることになるが,同条及び774条から778条までの規定はこのような不一致が生ずることをも容認しているものと解される。

もっとも、上記判決には、2名の最高裁判事の反対意見があります。

裁判また、上記判決の事案は、当事者間において父子関係の争いがあった事案でした。

そのため、上記判決の射程範囲は、あくまで父子関係に争いがある場合に限られ、当事者間に争いがなく、父子の血縁関係がないことに合意がある場合には妥当しないという見解もあります。

実際に、家裁において、父子関係に争いがない事案では、親子関係不存在確認調停において、合意に相当する審判がなされ、戸籍を訂正するというケースもあるようです。

いずれにせよ、DNA鑑定の場合、科学的な証拠があるからと言って法律上の親子関係を否定するのは決して容易ではないといえるでしょう。

 

 

養育費の支払いを拒否できる?

上記のとおり、裁判例は、次の①から③を認定して、これを総合考慮した結果、妻の養育費の請求を権利の濫用に当たると判示しています。

① 夫がこれまでに一番下の子の養育監護のための費用を十分に分担してきていること

② 妻が、出産して間もない時期に、一番下の子の父親が夫でないことを知っていたが、それを夫に告げなかったため、夫がことの法的な親子関係を否定する機会を失っていること

③ 妻が看護師であり、離婚後の一番下の子の監護費用を専ら妻において分担することができないような事情が窺われないこと

①から③について、①と②は多くのケースに該当すると考えられます。

問題は③(妻が看護師であったこと)です。すなわち、多くのケースは、妻の年収は決して高くありません。

養育費例えば、専業主婦や、パートタイマーの場合、看護師と比べて年収は大幅に下がります。

そのようなケースでは、「子の監護費用を専ら妻において分担することができないような事情」があるとも考えられます。

したがって、実の子でない事案の場合、養育費を支払わなくていいかどうか、一概には言えず、個別具体的に判断するしかないと考えられます。

 

 



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